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つり通信

海洋フォトジャーナリスト豊田直之が、サカナ達の優雅な姿と共に、海と釣りへの深い想いを語ります。

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2007年12月 4日(火)

六話 シマアジの激走で頭の中は真っ白に

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荒々しくまるで崖っぷちのような磯。ここでこの磯に張り付くようにして竿を出していた。伊豆七島・神津島、祇苗(ただなえ)群島・エボシの2番。釣りの雑誌を見ては、こんな危なっかしいところで釣りすることは無いだろうと思いながらページをめくっていたものだが、まさか自分がこんな場所で釣りをするとは思ってもみなかった。29年前、19歳の初夏の話。
青く澄んだ潮がこの磯にぶち当たり、渦を巻いていた。使ったコマセはイワシのミンチ。これを台所で使う「おたま」のようなひしゃくを使って撒いていた。生まれて初めて使う円錐ウキの頭の部分は、ちょうどこの海の色と補色の関係にあるのか、目がちかちかするほどの鮮やかさだった。
このウキが潮に乗り、緩やかに滑り始めたときだった。スンッとウキが押さえるように水面下10cmぐらいのところで止まった。思わずアワセてしまいそうになったがアワセずにウキの動きを見ていた。次の瞬間である。ウキはまるで手品のように目の前から消えうせ、それと同時に竿を持つ手にとてつもない力がのしかかってきた。 
サカナは足元に突っ込む。かなりきつく調整してあったリールのドラグはまるでなにもブレーキがかかっていないかのように滑っていた。
「えっ!?ミチイトがなくなる!?」
150m巻いてあったミチイトはすでに半分ぐらいになっている。ここがこんなに深いのか? もう何もできない。ただ相手の暴走を、竿を抱きこむようにして耐えるだけである。
初めてかけた超大物。この得体の知れない化け物のような引きをするサカナこそがシマアジだったのだ。
ふっと緊張が解けて、竿に何も抵抗がなくなった。慌ててリールを巻いてみるものの、なにも抵抗なく軽く巻ける。バレたのだ。一緒に磯に上がってくれたベテラン磯釣り師が
「たぶん5~6キロのいいシマアジかけたみたいだけど、止まらなかったね。シマアジはなかなかとれないんだよ。でも引きすごかったでしょう?」
もう頭の中が空白で、その言葉もまるで風のように通り抜けていくだけだった。仕掛けは、ミチイト10mから先がなくなっていた。ウキもなくし、ミチイト8号が激しく岩にこすれたのか、無残にささくれ立って切れていた。こんな太い糸をたやすく切っちまう奴がいるんだ。サカナに対して戦慄すら感じた瞬間だった。

(次回へつづく)

2007年12月 4日(火) 豊田直之フォトエッセイ固定リンク