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つり通信

海洋フォトジャーナリスト豊田直之が、サカナ達の優雅な姿と共に、海と釣りへの深い想いを語ります。

現在位置: つり通信 > 豊田直之フォトエッセイ > 2007年12月

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2007年12月25日(火)

九話 ガラスの唇のシンデレラ シマアジ

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そもそもアジの仲間は口が弱い。こんなことを言ってしまうと、ブリやカンパチだってアジの仲間で、奴らはそんなに口は弱くないぞと言われてしまいそうである。とりあえず今日のところは、そういう突っ込み無しで読んでいただきたい。

アジの口の構造だが、彼らのエサの喰い方に合致した形状になっている。ふだんは折りたたまれて普通の口の形をしているが、喰う時には瞬間的に漏斗状に伸びる。これはエサを吸い込むようにして喰うためのサカナの進化した姿だ。プランクトンを吸い込む、海底の砂ごとエサを吸い込む。特にシマアジは、海底の砂ごと海水を吸い込み、エラのところでそれを濾して、砂はエラから体外に排出、エサは口の奥へ送って飲み込むという行動が多い。そんなときに、漏斗状の口は効率よく、しかも確実に強い吸引力を持って吸い込むことができるのだ。

ところが、漏斗状のものは折りたたむときにかさばる。ふだんは折りたたんでいるわけで、そんなときにかさばった口では彼らの行動にも「もたつき」が生まれやすい。「もたつき」こそが、弱肉強食の世界で生きる彼らにとっては死活問題である。その点を改善するために彼らは伸びる部分を膜状に薄くすることでかさばりを防いだ。この皮を薄くしてしまったことこそが、アジの口切れを生む最大の要因になってしまったのだ。

シマアジは、いわゆる普通のアジの仲間でも大型になるタイプ。釣ったシマアジの魚拓や写真を見せると、釣りを知らない人たちは、「こんな馬鹿デカイアジがいるのか?」と驚く。それはそうだろう。最大で全長は1.5mにもなるといわれている。
そこまで大きなシマアジでなくても、仮に30cmを超えれば普通のアジよりは大きい。喰うときは唇を伸ばして喰うから膜状の薄い皮の部分にハリがかかりやすい。しかも平べったいカラダをしたサカナはヒキが強い。大きくて、ヒキが強くて、もろく切れてしまいやすい部分にハリがかかっていれば、暴れているうちにそこは確実に切れる。そうやって、ガラスの唇をしたシンデレラ姫には、何度も逃げられて、悔し涙を呑んだ方も少なくなかろう。

(次回新年1月からはオニカサゴです)

2007年12月25日(火) 豊田直之フォトエッセイ固定リンク

2007年12月18日(火)

八話 子供の味覚をなめちゃぁいけませんぜ!

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今まで一番美味しかったシマアジは、やはり前回書いた神津島の磯で7枚の良型シマアジを釣ったものを民宿でお寿司にしてもらったときのものだ。身はとろけるようで、上品で、セレブな食味というのはこういうことを言うのだろうと、そのとき思った。ところが、それからだいぶ後になって、シマアジ超美味説がもろくも崩れ去った事件が起きた。実は我が家ではこんなできごとがあったのだ。

ボクは、とある夏に八丈島南沖へ遠征釣りにでかけた。そのときに青ダイとシマアジを釣ってきた。青ダイもシマアジも良型。釣り味はとても良好だった。現場できちんと血抜きし、帰ってから3枚に下ろして一日寝かして刺身にしてみた。大きな皿に右半分シマアジ、左半分青ダイという超高級料亭のような我が家の食卓。

「どうだ、どっちも旨いだろう。どちらのサカナも超高級魚で、一生のうち口に入らないかもしれない高くて美味しいサカナだぞ」

ところが食べ始めると、なぜか左半分がどんどん減っていき、右半分がそのまま残ってきた。

「あれっ? こっちがシマアジの刺身。美味しいはずだぞ」

ボクのこの問いに、我が家の娘たちから実に明快な答えが返ってきた。

「だってお父さん、こっち側はとても美味しいけど、こっち側はあまり美味しくないよ」

「えっ???」

不思議に思ったボクは、まず青ダイのお刺身を、続いてシマアジのお刺身をほおばった。ボクも特に食通と言えるほどではないが、日本全国のサカナを釣り、旨いというサカナは食べた。その舌で判断してみると、たしかに娘たちの言うとおり、青ダイのお刺身は甘みもあり、とても美味しかったのだが、それに比べてシマアジはなにか青臭い感じがする。現場できちんと血抜きをしておいたはずなのだが、妙に生臭さが鼻についた。おそらく同時に食べ比べなければなんともないはずなのだろうが、食べ比べると味の差は明らか。しかも青ダイを食べてからだとシマアジの身に箸が出ないのだ。

たしかにシマアジは、南に行けば行くほど味が劣り、房総沖や伊豆半島沖、三宅島や神津島辺りまでが最も美味とされている。とはいえ、高級魚・シマアジにかわりはなく、箸をつけないというほどではないはずである。

子供の味覚は侮れない。ファミレスなどでも、お子様メニューはけっこう子供の味覚を小馬鹿にしたような味付けのものもあったりする。意外と子供の味覚は、実は大人より敏感で、かなり優れたものを持っているとボクは思うのだが…。

(次回へつづく)

2007年12月18日(火) 豊田直之フォトエッセイ固定リンク

2007年12月11日(火)

七話 釣り師はつくづくお馬鹿さんなもの

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シマアジは、それこそ30cmぐらいのサイズなら、伊豆や三浦界隈でもそう珍しくなく海の中で見ることができる。特に砂地の広がる海域やそこに根が点在するような海域ではよく見られるものだ。
自分たちの気の向くままなのか、彼らは一日でかなりの距離を回遊する。特に小型から中型は大きな群れを作って移動する。大型になると、どちらかというと単独行動になる傾向が強い。
ある日のこと。ボクはその日は伊豆七島の式根島で潜っていた。この日の天気はどん曇り。風は無く波も穏やかだったのだが、なにか雨でも降ってきそうな感じの日だった。海の中は、晴れた日と曇りの日ではまったく海の中の見え方が違う。いくら透明度のいい式根島の海でも、心の晴れない、少し不気味な雰囲気の漂う海中だった。
地元のダイビングガイド氏に案内されて潜っていた。ちょうど小さな根をかわすと、こじんまりとした、だが真っ白な砂地の広がる場所に出た。きっとここは、晴れた日に潜ったら、それこそ爽快感にあふれた、気持ちいい場所なんだろうなぁなどと考えていたりした。ふと背後に何か気配を感じ、振り向いてみると驚いた。3~5kgサイズのシマアジが100、いや200~300尾という単位の群れで回遊してきたではないか。先頭の集団は、砂地のエサを捕食しているようだ。漏斗状の口を伸ばして砂ごと海水を吸い込み、エラからドバッと砂を吐き出していた。じっと動かずにいたボクとガイド氏の周囲をゆっくりと通過して、去っていった。
そのとき、ボクの頭の中では、昔、神津島のヒラ段という沖磯で、超良型シマアジを爆釣したときの記憶が甦っていた。その日はちょうどこの日見た3~5kgサイズを7枚ゲット。しかもバラシは20数発ほど。シマアジはヒキが強い上に、唇が弱く、口切れやハリス切れ、根ズレでミチイトを飛ばしたりと、派手なバラシの連続だったが、とりあえず7枚ゲットできたのだった。朝、磯にあがってから昼過ぎぐらいまで、とにかく入れ食い状態。翌日は筋肉痛で動けなくなるほどだった。
しかし釣り師というのはつくづくお馬鹿さん。爆釣したり、大物釣ったり、いい思いをした記憶がいつまでもカラダと頭の中にしみ込んでいる。ちょうど博打で大もうけした感触が忘れられず、すってんてんになるまでつぎ込んでしまう心理によく似ている。
そう考えると、今までにどんだけ釣りにお金をつぎ込んだろう? つい先週もカミさんに内緒で竿とリールを買ってしまった。(笑)

(次回へつづく)

2007年12月11日(火) 豊田直之フォトエッセイ固定リンク

2007年12月 4日(火)

六話 シマアジの激走で頭の中は真っ白に

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荒々しくまるで崖っぷちのような磯。ここでこの磯に張り付くようにして竿を出していた。伊豆七島・神津島、祇苗(ただなえ)群島・エボシの2番。釣りの雑誌を見ては、こんな危なっかしいところで釣りすることは無いだろうと思いながらページをめくっていたものだが、まさか自分がこんな場所で釣りをするとは思ってもみなかった。29年前、19歳の初夏の話。
青く澄んだ潮がこの磯にぶち当たり、渦を巻いていた。使ったコマセはイワシのミンチ。これを台所で使う「おたま」のようなひしゃくを使って撒いていた。生まれて初めて使う円錐ウキの頭の部分は、ちょうどこの海の色と補色の関係にあるのか、目がちかちかするほどの鮮やかさだった。
このウキが潮に乗り、緩やかに滑り始めたときだった。スンッとウキが押さえるように水面下10cmぐらいのところで止まった。思わずアワセてしまいそうになったがアワセずにウキの動きを見ていた。次の瞬間である。ウキはまるで手品のように目の前から消えうせ、それと同時に竿を持つ手にとてつもない力がのしかかってきた。 
サカナは足元に突っ込む。かなりきつく調整してあったリールのドラグはまるでなにもブレーキがかかっていないかのように滑っていた。
「えっ!?ミチイトがなくなる!?」
150m巻いてあったミチイトはすでに半分ぐらいになっている。ここがこんなに深いのか? もう何もできない。ただ相手の暴走を、竿を抱きこむようにして耐えるだけである。
初めてかけた超大物。この得体の知れない化け物のような引きをするサカナこそがシマアジだったのだ。
ふっと緊張が解けて、竿に何も抵抗がなくなった。慌ててリールを巻いてみるものの、なにも抵抗なく軽く巻ける。バレたのだ。一緒に磯に上がってくれたベテラン磯釣り師が
「たぶん5~6キロのいいシマアジかけたみたいだけど、止まらなかったね。シマアジはなかなかとれないんだよ。でも引きすごかったでしょう?」
もう頭の中が空白で、その言葉もまるで風のように通り抜けていくだけだった。仕掛けは、ミチイト10mから先がなくなっていた。ウキもなくし、ミチイト8号が激しく岩にこすれたのか、無残にささくれ立って切れていた。こんな太い糸をたやすく切っちまう奴がいるんだ。サカナに対して戦慄すら感じた瞬間だった。

(次回へつづく)

2007年12月 4日(火) 豊田直之フォトエッセイ固定リンク